会長挨拶

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PF-UA会長 平井 光博 (群馬大学)

2015年4月より,PF-UAの会長を佐藤衛前会長より引き継ぐことになりました群馬大学の平井です。PF共同利用開始の時から早30年以上,ユーザー或は協力研究員(BL10C)として長年お世話になってきました。その間,J-PARCの前身であるKEK-KENSでは,稼働開始後から装置グループのメンバーとして熱中性子散乱装置の設計・建設や生体材料を中心とした研究を行い,また,ハンブルグ近郊の研究用原子炉(GKSS)では,動的核スピン偏極法による生体物質の偏極中性子散乱実験装置の立ち上げと実証研究に従事しました。放射光や中性子の今やオールドユーザーになりましたが,新PF-UA幹事,運営委員の方々とともに,人材育成を含めた日本の放射光科学の基幹施設であるPFの発展に微力を尽くしたいと考えております。ユーザーの皆様の一層のご協力,ご助言を宜しくお願い申し上げます。

我が国に於ける放射光利用を振り返りますと,創世記は1980年代のPF共同利用開始と重なり,当時は,PF放射光利用=先端科学の感がありました。1990年代半ばからの第3世代光源の出現によって,PF放射光利用≈先端科学+汎用へ移行し,2000年代に入って,加速器・光源技術の発展に伴い,NSLS-II(米),SLS(スイス),Diamond(英),Soleil(仏)などの超低エミッタンスの新第3世代中型ring光源である建設がヨーロッパ,米国,豪州,アジアなど世界各地で続いており,稼働中・建設中を含めると20箇所に及び,現在では,PF放射光利用∼汎用+先端科学になっているのではないかとの危惧が高まっております。勿論,その間PFでは,1987 年と1996 年の2度の蓄積リングの改造と高輝度化,2002年のPF-ARリングの高度化,2005年の挿入光源設置のための直線部増強と挿入光源の導入,ビームライン設備の大幅な更新,次世代光源であるERL実証など,研究所・施設スタッフの継続的な多大なご尽力があり,また,ユーザーの方々の先進的な研究推進へのPF利用の努力があったことは言うまでもございません。しかし,PFが今や世界最古の大型ring光源であるとの現実を直視した抜本的な対応を早急に講じる必要があると考えます。

既に放射光利用は,先端基礎・応用科学から新素材開発・創薬などの産業利用に至る広範囲の分野に於いて重要且つ極めて有効な基盤技術となっております。また,PFは世界的に見ても稀な大学共同利用施設として,我が国の放射光科学の展開や放射光利用をベースとした科学技術開発・産業応用などの担い手の継続的な人材育成の一大拠点であります。一方,国家予算は厳しさを増しており,我が国の高度人材育成は,グローバル競争の中で極めて重要な課題であるにも関わらず,対GDP比率でOECD中最下位になっており(産業競争力懇談会資料2010.03.12),その影響は,大学関係では運営費交付金の継続的な削減よる教育研究基盤経費の枯渇として顕在化しております。その意味に於いても,多種多様な分野の多くの研究者が多くの学生とともに活動可能な大学共同利用施設としてのPFの重要性は一層高まっている様に思われます。現在,高エネルギー加速器研究機構及び物質構造科学研究所では,放射光施設の次期計画や共同利用のあり方を含めたKEKロードマップやミッションの見直しが検討されております。そのような状況の中で,佐藤衛前会長のもとユーザーの立場の明確化のために,日本の放射光科学を俯瞰した現状分析に基づくPFの役割と将来構想に関してPF-UA白書「PFおよび日本の放射光科学の将来への提言」が纏められました。明快,かつ詳細にPF-UAの立場が記載されております。施設・ユーザー一体となった危機感の共有が大変重要と考えます。ユーザーの皆様には,白書を是非一読頂き,PFで行った成果に留まらず,その人材育成を含めた役割の重要性を是非,機会ある毎に喧伝して頂きたく存じます。

3月のPFシンポジウムにおいて,村上施設長からPFの運営状況,将来計画などに関してご報告がございました。PF施設と新執行部,運営委員の方々とともに,下記の課題に取り組んで参りたいと考えます。

☆喫緊の課題:ビームタイムの激減による研究・教育に於ける多大な影響の解消。今までに何度かアンケートが実施されておりますが,昨年度行いましたアンケートには「著しい影響(放射光利用を前提とした研究計画の見直し,指導テーマの変更など)」との回答が多く寄せられました。世界の大型放射光施設の運転時間の標準は5000時間程度であり,また,「大学共同利用」であることを考慮すると昨年度の2000時間程度の運転時間は考えられない状況でした。PF施設と一体になって,研究所,機構,関係各所に改善の要望を致します。

☆中期的課題(5年):新しいサイエンスの展開や新素材・創薬開発などにおけるグローバル競争を先導するためには,新第3世代中型ring光源に匹敵するビーム特性とユーザーの需要に応え得る十分な数の共用ビームラインを有する次期光源は必須です。過去に将来計画の策定・見直し,議論が繰り返しなされてきましたが,現在の国際情勢や国内予算の逼迫状況・費用対効果などを踏まえると,建設計画の確定・実施,運用の開始は待った無しの状況です。ユーザーの皆様の要望等に関する定量的なデータが重要ですので,アンケート等でのご協力を是非御願い致します。

☆長期的課題(10年):先にPF次期光源として選定されました次世代linac光源であるERL実証実験と特性評価が終了し,その技術的な課題と今後の展開が見えてきました。新技術開発は多くの分野のイノベーションの原動力であります。cERL実証は世界初であり,長期的な展望にたった開発継続が重要であり,ユーザーコミュニティー全体での理解とサポート体制の構築を図りたいと思っております。

放射光科学の発展には,研究者個々の先端性を求める熱意と努力は勿論のこと,継続的な開発研究や研究環境の整備・更新・運用と人材育成が欠かせません。諸般の困難な状況を克服するために,ユーザーの皆様のご協力を重ねてお願い申し上げる次第です。グローバル化が謳われる今こそ「和魂洋才」の矜持を保ちつつ,次世代が雄飛できるようにユーザーの皆様と施設の皆様の橋渡しを心がけていく所存です。宜しくお願い致します。

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